ゼンがよく作るような青白くて四角い結界の中に内接するかたちで、黄色っぽくて丸い結界が張ってある。


それが、四角い結界を押し広げようとするかのように、すこしずつ膨張しているのだ。



(あの丸いのは、芽利加の結界……)



 先ほどウォルターが砂嵐を起こしたのは、二人を離れさせてゼンだけを結界で囲み、そのまま連れて行くためだったのか。



 では、四角い結界はゼンのものか。


ゼンを連れ去ろうとする丸い結界の外側に、ゼンは不動の結界を張って対抗しているのだ。



「ねー、」



 ふいに頭上から声がして、エルはハッと顔を上げた。


目の前には邪気のない笑みを浮かべたウォルターが立っていた。



「よそ見とか、ないわ」



 声と共に、空気を切る音がする。


エルはとっさにぎゅっと目をつむった。



 だが。



「………………あれ?」



 予想していた痛みは襲ってこなかった。


エルはおそるおそる目を開けて、周囲を伺う。



 目の前にいたはずのウォルターは、いつの間にか数メートル先に倒れていた。


なにがなんだかわからないエルをよそに、起き上がったウォルターは憎悪のこもった目でゼンを睨みつけている。