ラスト・ジョーカー




「しかも、ゼンよりずっと年上だったんだね。……五百歳くらいかな」


「そうなるな」


「あたしは、化け物になる前から化け物だったんだね」



 さらりと言った言葉に、ゼンは眉をひそめた。


「……エル」



 気遣わしげな蒼碧の眼を見返して、エルは笑って首を振った。



「心配しないで。気にしてるわけじゃないの。むしろすっきりしてるかも」



「すっきり?」



「うん。異形になる前から化け物じみたサイキックだったわけだから、もし異形にされなかったら普通の人生を歩めたってわけでもないじゃない? だったらもういいか、って」



 エルが言うと、ゼンは安心していいものか迷うような微妙な表情ながらも、「そうか」と頷いた。



「その、手に持ってるのはなに?」



 右手にアレンからの手紙を持ったゼンの、左手を指差してエルは言った。



 見たところ、手のひらほどの大きさの古いノートだ。



「ああ、これな」と言って、ゼンはそれをエルに手渡した。

淡い橙の表紙の端には、黒いペンで「Y・N」とイニシャルが書いてあった。



「たぶん、名瀬優子の――おまえの日記だ。……わるい」



「どうして謝るの?」


 不思議そうに目をぱちくりさせるエルに、ゼンはきまりの悪そうな顔をして髪をわしわしと掻いた。



「最初のページの数行だけ読んだ。それで日記だってわかったんだ……その、日記をひとに読まれるって嫌だろ」