「で、ぶらぶら旅して、一、二年前に……まあ、おれが不老不死だと知ってるやつがいて、そいつから手紙が来た。おれの家の地下室にあったものを見つけた、と」
「それは、なんだったの?」
勢い込んで尋ねるエルに、ゼンはどこか悲しげな表情を浮かべた。
それは一瞬のことで、ゼンはすぐにエルから目をそらすと、握っていた手を放して立ち上がった。
一歩。一歩。ゆっくりと、ゼンが離れていく。
その背中を追いかけたくて、でも、そうしてはいけない気がして。
わけのわからない焦燥を抱えたまま、エルはじっとゼンの言葉を待った。
しばらくの沈黙の後、一陣、強い風が吹いて、その風に小さな呟きが乗った。
「……おまえ、だよ」
「……え?」
「エル、おまえをそんな――異形の姿にしたのは、おれの母かもしれない」
頭の中でなにかが崩れ、なにかが組み合わさる、そんな音がする。
(あたしを化け物にしたのが、ゼンのお母さん……?)
なら、エルも本当は百年前の人間だったのだろうか。
ゼンと同じに不老不死なのだろうか。
いや、そんなことよりも。
エルが、不老不死を解く鍵だったのか。
だから〈トランプ〉はエルを欲したのか。だからゼンはエルをさらったのか。
では、あの言葉の意味は。
――……殺さなきゃいけないやつが、いるんだ。



