唐突に。
本当に唐突に、声が、降った。
あれほど聞きたいと思っていた声。もう聞けるとは思っていなかった声。
ゆっくりと、エルは顔を上げた。
「……幻、とかじゃないのよね」
目の前にいるのは、紛れもなくゼンで。
怒ったような、照れたような、エルの願望が見せた幻にしては複雑な表情を浮かべて「なんだそれ」と言った。
「ほんとに、ゼンなのね……?」
「ああ。心配しなくても死んでない」
ぶっきらぼうに答える声が、表情が、たまらなく嬉しくて。
エルはさっきまではもう二度と立ち上がれないと思っていた足で地を蹴って、ゼンに飛びついた。
抱きついたゼンの体は温かい。
――たしかに、生きているのだ。幻でも、幽霊でもなく。
ゼンは驚いたように身をこわばらせたが、エルを突き放したりはせず、大きな手でエルの頭をぽんぽんと叩いた。
「……悪いな。心配かけた」
低くささやく声に、エルはただ頷く。
しばらく、二人ともそのままでいた。そのままでいたかった。
――だけど、エルには今、どうしても訊いておきたいことがある。
「ゼン、どうして、生きてるの? どうして、どこも怪我をしてないの?」
「エル」
戸惑ったような声で、ゼンは名を呼んだ。
二度目に、エルの名を。



