ローレライが死んだときは、これほど胸が痛くはなかった。
それは、ローレライのときは心の準備ができていたからかもしれないし、あるいは死によって彼女が檻から解放されたことに安心していたからかもしれない。
胸の内にはただ深い喪失感があって、もう二度と彼女と会えないことへの静かな寂寥があった。
「ゼン……っ!」
名前を、呼ぶ。きっともう会えない人の名前を。
今胸の内にあるのは、荒れ狂う嵐のような感情。
いやだいやだ、と幼子のように駄々をこねる自分が内側にいる。
悲しいのでもなく、寂しいのでもない。
ただ「どうして」という言葉だけが自分の中に渦巻いている。
「ゼン」
名前を、呼ぶ。その声に、記憶の中にあるゼンの声が重なった。
エル、と。
男に殴られそうになったエルをかばうとき、ゼンはそう言った。
(あのとき本当は、すごくすごく嬉しかったのに)
ゼンが名を呼んでくれたのに。
――初めて、エルの名を呼んでくれたのに。
泥だらけの顔をくしゃくしゃに歪めて、エルは身を絞るように叫んだ。
「ゼン――――――!」
「うるさいな。そんなに大声で呼ばなくても聞こえてる」



