泣いている場合じゃないのに。早くゼンを探さなきゃいけないのに。
「ゼン……」
名前を呼ぶと、無愛想なゼンの顔が頭に浮かんだ。
やっぱり彼はもうこの世にいないのかもしれない。
いつだって呼んだら応えてくれたのに、今はこれだけ呼んでも応えないんだから。
あの血痕はまぎれもなくゼンのものだった。やっぱり、生きているわけがないんだ。
なら、彼の亡骸はどこへ行ってしまったのだろう。
やはりエルが気づかないうちに〈トランプ〉が見つけてつれて行ってしまったのだろうか。
……ならもう、探すのはやめにしようか。
「だって、もう歩けないよ……」
ゼンがいないと、歩いていけない。
だって、こんな化け物に優しさくれたのは、ゼンが初めてだった。ゼンだけ、だった。
ゼンがいないと、きっともう、二度と立ち上がれない。
なら、いっそ。このまま起き上がらずに、ここで朽ちてしまおうか。
飢えて死ぬのでも、獣に食われるのでも、どちらでもかまわない。
「ゼン……」
名前を、呼ぶ。大切な人の名前を。
それに応える声がないことが、いつからこれほど辛くなったのだろう。
――いつから、ゼンがこれほど大切になっていたのだろう。



