ラスト・ジョーカー





 ゼンは男の拳を流れるような動作でかわし、男の懐に潜り込む。


そして――次の瞬間には、男が地に倒れていた。


背か腰をしたたかに打ったのだろうか、男は苦悶の表情を浮かべている。



 一拍遅れて、男がゼンに投げられたのだとエルは悟った。


頭の上で、ひゅー、とアレンが口笛を吹くのが聞こえた。



「そのクソガキにこれ以上痛い目を見せられたくないなら、あいつにはもう手を出すな。おれの連れなんだ」



 そう言い残して、ゼンは倒れた男を置いてエルとアレンを引き連れ、宿の中へ入り扉を閉める。


と、いきなりエルの頬を思いきりつねった。



「いひゃいいひゃいいひゃい! なにするのゼン!」



「馬鹿かおまえは!」



 涙目で抗議するエルに、ゼンが怒気もあらわに怒鳴った。


驚いたエルは思わず押し黙る。



「おまえ、もうちょっとでどこかに売っぱらわれるところだったんだぞ!」



「……ゼン」



「ここ数日は砂漠の旅で、そういうことに注意する必要がなかったっていうのはわかるが、ここはもう街なんだ。いろんなヤツがいる。それをもうちょっと自覚しろ」



 まっすぐにエルを見つめる、怒ったような瞳の奥に揺らぐのは、心配と、安堵の色。