箱の用意は長くはかからなかった。
あっという間にちょうどひと二人が並んで座れるサイズの箱が空になり、エルとゼンはいそいそと中に入って座り込んだ。
アレンが麻由良から借りた水と毛布を持ってきて、ゼンとエルに手渡す。
「エルちゃんさん、狭くない? 大丈夫?」
心配そうに問いかけるアレンにエルは頷いた。
麻由良が「さて」と言って、蓋に手をかける。
「検問が終わって無事に〈ハナブサ〉についたら箱を開けよう。それまでは箱の上に別の荷を乗せているから、中からは開けられない。
馬車の中にアレンを置いておくから、どうしても外に出たい場合は内側から箱を叩くなりしてくれ」
「はい」
「エルちゃんさん、ゼンの旦那、元気でねー」
アレンが別れを惜しむかのようにしみじみと言う。
〈ハナブサ〉に到着するまで一時間、検問を通って宿を借りるまでに三十分。
それまでずっと箱詰めだ。だからと言って、元気でね、は大げさもいいところだが。
じゃあ閉めるよ、という麻由良の声とともに箱の蓋が閉められて、真っ暗になった。
続けて、二人の入った箱の上になにか重たいものが乗る気配がする。
蓋が潰れて荷物に押しつぶされたりしないだろうか、とエルはすこしだけ心配になった。



