ラスト・ジョーカー




 するとふいに、ミオがエルを見た。


幼い大きな目がまっすぐにエルを捉える。


その目をエルが見返したとき、ミオは唐突に「あっ!」と声を上げると、母親の腕から降りて野営地へ走っていってしまった。



「あ…………」



 吐息とも呟きともつかない声が口からもれる。



 怖がらせてしまったのか。

そう思って、エルはうつむいた。



 だが、小さな足音はまたすぐに戻ってきた。


そしてうつむいたエルの顔を覗き込み、あどけない顔いっぱいに笑顔を浮かべる。



 ミオは小さな手をエルにまっすぐに伸ばした。


「これ、あげる!」




 受け取ってみると、きれいに磨かれた鈴だ。


曇りのない銀色に、エルの赤い髪が映りこむ。



「これを、あたしに……?」



 エルは半ば呆然としながら、ミオの目を見返した。


ミオは大きく頷いた。母親と同じワインレッドの髪が勢いよく跳ねる。



「ミオのたからものなの。わるいものからまもってくれる、おまもりなんだよ。

おねえちゃんがみんなをまもってくれたから、ミオからのおれい!」



 おれい。お礼。に、宝物をくれたのか。



「おねえちゃん、ありがとう!」



 エルを見上げて明るく笑うミオの顔に、透明な水が一滴、ポタリと落ちた。