「世辞はいいよ。それで、検問からかくまってほしいんだったか。君たち、名前は?」
「旅の者で、綾崎ゼンといいます」
初めて聞くゼンの苗字に軽く驚きながら、エルも名乗る。「エルです」
その後ろで「アレン・キャドバリーでーす」と声が上がる。
「旅の途中でお二人さんに偶然助けられて、同行させてもらってます」
各々の名を聞いて、麻由良は短く「そう」と言ったきり、しばらく黙り込んで三人をじっと見つめた。
三人をどうするか決めかねているのだろうか。
だが、迷っているにしては視線が鋭い。
それも、悪意のあるナイフのような鋭さではなく、すべてを見抜こうとするまっすぐな光のような鋭さだ。
(仲間に入れるか迷うとしたら、原因はあたしだ)
エルは視線から逃れるように縮こまる。
わずかな沈黙の後、麻由良はふいに「エル」と声をかけた。
「は、はいっ」
思わず跳び上がりそうになりながら、エルはおそるおそる視線を上げて麻由良を見た。
厳しい顔をしていると予想していた麻由良の顔は、意外にも笑みを浮かべてエルを見ていた。
「あのモウセンゴケの群れを一瞬で倒した君が、それほどまでに私たちに怯えるとは、妙な話だ」
どう答えていいのかわからず、エルは困り顔で麻由良を見返す。
麻由良はそんなエルに優しく優しく微笑んで、
「エル、君には礼を言う。君がいなければ私も、ミオも、隊商の皆も、今頃モウセンゴケに殺されていた。ありがとう。そして、これからよろしく」
静かにそう言った。



