「いや、だめだ! どんなに浄化石を積まれたって、化け物を引き入れるわけにはいかねえ」
そう言ったのは、あの、最初に話しかけた男だ。
一人の女が「でもガラン、あの異形はモウセンゴケを……」となだめるように言うが、ガランと呼ばれた男はそれを遮って、
「そうだ、あいつはモウセンゴケを倒した。考えてみろよ。それだけ強いってことは、その気になればいつでも隊商を乗っ取れるってことだ」
切に訴えるガランの言葉で、隊商に沈黙が広がった。
自分に対する人々の恐怖の度合いが増したのをエルは肌で感じとって、身を縮こまらせる。
ゼンはそんなエルをちらりと見て、小さくため息をついた。
「あんたは、さっきからこいつのことを化け物化け物とうるさいが、」
それまでの丁寧な口調が唐突に変わって、エルは驚いてゼンの顔を仰ぎ見た。
そして小さく息を飲む。
ゼンはまっすぐにガランを睨みつけていた。
「こんな小さな女の子を必要以上に恐がって、みっともないな」
馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ゼンは言い放つ。
誰もが驚いたような顔でゼンを見た。
言われたガランの顔には、みるみる朱が上っていく。
そしてツカツカとゼンの前に来ると、ゼンの胸倉を掴んで持ち上げた。



