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 エルマが自室に帰ってメオラと話をしていると、唐突に扉を叩く音がした。



「どうぞ」



 ジラあたりが夕餉を運んできたのだろうと見当をつけていたエルマは、入ってきた人物を見て目を見開いた。



「誰何くらいしたらどうだ。フシルからこの城の現状は聞いただろう? もうすこし警戒してくれ」



 苦笑しながら言ったのは、赤い髪の王子――ラシェルだ。



「でん……いや、ラシェル」



 殿下、と呼ぼうとして、エルマは昼間のリヒターの「兄さんのことはラシェル、と呼んでくれてかまわない」という言葉を思い出して改めた。



 ラシェルはすこし驚いたような顔をしたが、そのことについてなにも言わなかった。



「どうしてここへ? いつもは朝か昼に様子を見に来るのに」



 エルマの問いに、ラシェルは困ったような表情を浮かべる。



「話があってな。大食堂にリヒターたちを待たせてある。来てくれるか。……メオラと、カルも」



 戸惑いを覚えながらも、エルマは頷く。

ラシェルについて部屋を出ると、メオラも怪訝な顔をしながらついてきた。

近衛として寝室の扉の前で立っていたカルにも事情を話し、ラシェルの先導で大食堂へ向かった。