カルの警戒に気づいていないふりをしながら、リヒターはいつも通りの朗らかな口調で言った。



「べつにかまわないさ。王位継承問題については王城内にいる者ならみんな知っているし、国民だってうすうす感づいていることだ。秘密にしようとしてもできることじゃない」



「……そうか」



「そうだよ。君やエルマに伝えずに放っておいても、いずれは知ったことだろうね。

でも、君たちにはできるだけ早い段階で王城内の状況に気づいて警戒してもらわなくちゃいけないから、なるべく早く話す必要があった。それだけのことだよ」



「なら、すぐにでも俺をエルマの近衛に付けるべきだろ。なんで十日もエルマに会わせなかった?」



「それは、やっぱり新しく入ってきたばっかりの君が、いきなり王子妃付きになったら目立つし不自然だからね。君の実力を周りに認めさせる期間が必要だった」



 カルは不満げな顔をしてはいたが、「なるほどな」と呟く。

そして大きく伸びをした。



「ま、今日からは俺も晴れてエルマ付きだし、細かいことは気にしないでおいてやるよ」


 と、本当に嬉しそうに笑うカルに、リヒターも「それはありがたいね」と笑った。



「どうか、エルマをちゃんと守ってやってくれ。こちらとしても、偽ルドリア姫になにかあったら困るんだ」



「おー。そのためにこんな胸糞悪いとこまでついてきたんだ」



 そんな当たり前のこといちいち言ってんじゃねえよ、と、カルはぼやく。

それを聞いて、リヒターはふと、メオラとラグの顔を思い浮かべた。




――エルマはこっちよ。あんたたち王家には渡さない。

 そう言った、強気な声を。

――お帰りを、お待ちしています、我らが長。

 エルマが帰ると信じて疑わない、真っ直ぐな瞳を。



「どうして……」



 気がつくと呟いていた。カルが「なんだ」という目でリヒターを見る。



「どうして、君やメオラやラグは、それほどまでにエルマを慕うんだい?」



 珍しく真顔で問うリヒターに、カルは「なんだ、そんなことか」と鼻で笑った。