「ルドリア様、部下が失礼をしました。なにぶん新入りですので、どうかご寛恕ください」
エルマは首を振って、「かまわない」と応えた。
「それより、ラシェル殿下がわたしに会わせたいと言っていたのは、あなたのことか?」
エルマが訊いた。「そうよ」と答えたのはリーラだ。
「紹介するわ、ルディ。彼女は名はフシル・デリといって、近衛隊副隊長で、リヒター兄様付きの近衛兵よ。女性だけど、近衛隊でいちばん強いの」
エルマは目を見開いて、フシルを見た。
「女性の身で、それもこれほど若くして近衛隊副隊長の座にまで昇りつめるとは。相当の実力の持ち主なんだろうな」
言われたフシルは「恐縮です」と、うやうやしく頭を下げる。
そういったしぐさ一つ一つが、彼女の洗練された武人としての素養をうかがわせる。
エルマが感心していると、「じゃあルディ、あたくしはこれで失礼するわ」と、リーラが言った。
「リーラも来ないのか?」
「ええ。あたくしがラシェル兄様に頼まれたのは、ルディをフシルのところへ案内することまでだし、これから刺繍のお勉強があるの」
そう言って、リーラは小さく礼をして、来た方向を戻っていった。
それを見送ったリヒターが、「それじゃあ僕は、久々に訓練場の様子でも見て回ろうかな」と言って、訓練場へ歩いていってしまう。