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 エルマがリヒターとリーラに連れて行かれたのは、近衛兵たちの住む兵舎だった。



 大きな――もしかすると王族や家臣たちの住まう居館よりも大きな建物の内部には、武器庫や広い訓練場もあり、その訓練場で、エルマは久しく見なかった顔を見つけて声を上げ――かけて、やめた。自分が「ルドリア」なのを思い出したのだ。



 すると、エルマの隣を歩いていたリーラが、「あら?」と声を上げた。



「どうかした?」と、リヒターが言う。



「あの黒い髪の、剣の訓練をしている方、見ない顔だと思って。新しく入ったのかしら?」



 と言ってリーラが示したのは、エルマが目を留めたまさにその人――カルだった。



 リヒターは「ああ」と破願して、「あの者は僕が近衛隊に誘ったんだ。この前街に下りたときに見つけて、ルドリア付きの近衛にしようと思ってね」と、リーラに説明した。



 リーラが「そうなの? ならご挨拶しなくちゃ」と言って訓練場のほうへ歩き出した、そのとき。



「不用意に訓練場に入っては危ないですよ、姫様」



 背後から低い女の声がした。



 エルマとリーラが驚いて振り返ると、近衛隊の制服に身を包んだ、妙齢の女が立っていた。

金の瞳の美しい女だが、その隙のない立ち姿と、なにより胸元の金の刺繍――リヒター直属であることを示すフクロウをかたどった刺繍から、近衛隊としてかなりの実力を持つ者だと察せられた。