アルの民が毎年のように営業許可証の発行を王家に拒否されながら、それでも毎年夏市の時期にシュタインへやってくるのは、店を出せなくとも確実に利を得る手段が夏市にあるからだ。

市で賑わう反面、治安の悪くなるシュロスには、商人や貴族の護衛の仕事がごろごろ転がっている。

エルマのおかげで営業許可証を得られたアルの民だが、店番をしておらず暇のある若者は、例年通り商人たちの警護の仕事に励んでいた。



 長代理であるラグの仕事は、アルの店と商人に雇われた者たちとの間を行ったり来たりして、様子を見ることだ。

店は順調か、なにか問題は発生していないか。

護衛の仕事をしている者は体調を崩していないか、怪我をしていないか、雇い主の商人とはうまくやっているか。

そうやって見てまわりながら、商人たちから噂話を仕入れることも。

ラシェルとルドリアの婚約祝いの色が強い今年の夏市では、そこかしこでシュタイン・ルイーネ両王家に関する噂が飛び交っている。

ラグはそういった噂話に耳を済まして、ルドリアについての情報を集めてまわっていた。



 そして、ラグの仕事はもう一つある。



 ラグは赤い実のなる樹のそばに立って、目の前の王城を見上げた。



 城を囲む背の高い壁のせいで、城は最上階しか見えない。

しかし、ラグにはそれで十分だった。



 規則的に並ぶ玻璃のはいった窓の一つに、鮮やかな赤と黄色が見えた。

白い陶器に生けられた花が二輪、部屋の窓際に飾られているのだ。



 その部屋がルドリアの――エルマの寝室であることを、そして、その花を飾ったのがメオラであることを、ラグは知っていた。