ミレイと呼ばれた老女は顔を上げ、ラグの姿を見止めると、ぷいと横を向いて煙管を口にくわえた。



「賃金に見合った程度の仕事はしてるさね。なんだい、おまえさん今朝もここに来たが、この若造はラグの坊やがちょくちょく見に来にゃあならんほど、信用ならないやつなのかい?」



 ミレイが言うと、隣に立った若者――テオは慌てたように「ええっ、そうなんですか? おれ、そんなに信用ないんですか?」と、ラグに迫った。



 そんなテオにラグは苦笑して、

「いや、そういうわけじゃないよ」

 と言って、テオをなだめる。



「テオだけじゃなくて、商人がたの護衛についているみんなのところには、定期的に様子を見に行くようにしてるんだ。べつに、さぼってないか見に来てるわけじゃなくて、万一体調が悪くなったり怪我をしたりすれば交代を寄越さないといけないから」



「なんだ、そっか」



 テオが安心したように言うと、ミレイがテオをギロリと睨みつけた。



「なんだい、ほっとしたみたいに。さぼってるって自覚でもあるのかい」



「え!?いや、そんなことないっすよ!俺ちゃんと仕事してるじゃないですか!昨日だって盗人捕まえたし」



 あわてて取り繕うテオに、ミレイはにやにやしながら得意の毒舌を吐く。それを眺めながら、ここは大丈夫そうだな、とラグは思った。