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 耳を塞ぎたくなるような喧騒の中、ラグは走っていた。

走っていたと言っても、この人ごみの中では、速さは歩いているのと大差ない。

香辛料の店の前を通り過ぎ、絹織物屋の呼び込みを無視し、大通りに比べたらまだ人の少ない細い路地へ。



 普段なら人のまったく通らなさそうな路地にも、夏市の間は店が開いて、人で溢れかえっていた。

もっとも、場所が場所なので怪しげな占い師や、よくわからない草を並べた店なんかが多い。

そんなところを通っていると、こんな店が出店できるのなら、なぜアルは夏市での出店のために族長を差し出さなければならなかったのかと思えてならない。



 人でごった返して周りの景色などなにも見えない市の中を、それでもラグは迷わずに進む。

長いこと歩き回ったせいで、服は汗でぐっしょりと濡れている。



 細い路地を抜けるとまた大通りに出た。

その大通りを横切り、また細い路地へ入る。

そうしてまた大通りへ出て、それを横切り細い路地へ。

そうやってなるべくひと気の少ない道を通って、少しずつ王城に近づきながら、王城の東側にあるアルの店から西側にまわる。



 やがてラグは、城壁のすぐ前に赤い実のなる樹を見つけた。

その下では老齢の女と若い男が陶磁器を売っていた。老女は簡素だが上質そうな服を着ていて、男は古い革の防具を身につけ、腰に長剣を下げている。



「やあ、ミレイさん。テオはちゃんと仕事をしているかな?」



 ラグはその老女に声をかけた。