リヒターは食い下がったが、メオラは首を振り、

「わたしも侍女である以上、特別扱いをしていただくわけにはいきません。ジラにはジラの、わたしにはわたしの仕事があります」


 と言って、その場を動こうとしなかった。



 これ以上食い下がっても、メオラは頷かないだろう。

リヒターは諦めて「そう、残念」と言うと、メオラを部屋の中に残したまま出ていって、扉を閉めた。



 すこし先を行くエルマたちに追いつくと、リーラがメオラの可愛さについて熱弁していて、リヒターは思わず苦笑した。

どうやらリーラは、そうとう彼女が気に入ったようだ。



(たしかに可愛らしくはあるんだけどねえ……)



 ついさっき見た、エルマを見送るときのメオラの硬い表情を思い出す。



(どうしたものかなあ、あの頑なさは)



 この十日間、メオラはエルマと話すときは明るく笑うこともあるが、リヒターやラシェルと話すときには、笑ったところなどついぞ見たことがない。

必要最低限の言葉を交わして、決して自分からエルマ以外の人と話そうとはしなかった。


メオラがそこまで頑なに王家側の人間を拒むのは、こちらがエルマやメオラを無理やりに王城へ引き入れたからだろうが、だからこそ二人にはできるだけ快適に過ごしてほしいと心を砕くラシェルにとって、メオラのそうした態度はこたえるようだ。


政務で忙しいラシェルの代わりに、エルマの様子を見に行くのはリヒターであることのほうが多いのだが、エルマの部屋から帰ってきたリヒターにラシェルが聞きたがるのは、もっぱらメオラのことだった。


ラシェルがリーラをエルマたちに会わせたのは、彼女の持ち前の明るさで、メオラの態度の軟化を図ろうとする意図もあったのだろう。