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 ラシェルの言っていた迎えは、エルマが自室で昼食をすませた直後にやってきた。



 そっと控えめに叩かれた扉を開けたのはメオラだ。ちょうどそのとき、メオラはエルマの部屋に、貰い物の菓子を届けに来ていた。


夏市の始まったこの日、王城には朝からひっきりなしに、婚礼を控えたラシェルとルドリアへの献上品が、商人たちからわんさか届けられていたのだ。



 扉の外に立っていたのは、人形のように美しい少女だった。

年は見たところ、エルマやメオラと同じ十四、五歳くらいだろうか。

すみれ色の可愛らしいドレスが、よく似合っていた。月の光のような品のある金の髪が、ゆるく波打って腰まで伸びている。

まだ幼さの残るあどけない顔立ちだが、その立ち姿は繊細ながら堂々としていて、利発そうな輝きを浮かべた瞳は、扉を押さえているメオラをまっすぐに捉えていた。



 エルマやメオラが何か言うよりも先に、彼女は顔いっぱいに喜色を浮かべると、唐突に駆けだして、まるで体当たりをするような勢いで、そのままメオラに抱きついた。



「可愛い! なんなの、すごく可愛いじゃないの! なあに、あなた、最近入った女中さんかしら?とっっっっても可愛いわ!大きくて、きれいな眼! 夏の空みたいな青い瞳が素敵。

それに、髪、ふわふわ愛らしくて、とってもきれいなのね。兄様ったら、こんなに可愛い子がいるのに、あたくしに教えないなんて、ひどいわ!」



 唖然として声も出ないメオラを抱きしめて、少女は可愛い可愛いと連呼した。

エルマもぽかん、と口を開けたまま、動けないでいた。

いったい何なんだ、この少女は?



 そう思ったとき、少女の眼が今度はエルマを見た。

あっ、と思ったときには遅かった。

少女は白い頬を紅潮させ、次の瞬間には、その小柄な体でエルマに突進してきた。