エルマはできるだけ口調に気をつけながら、「ええ、いらっしゃいます」と答えた。


すると、隣のラシェルが、「なんだ」と声を上げた。



「カリエンテ様がお探しです。火急の要件があるとか」



 ラシェルがわずかに眉をひそめたのを、エルマは見た。



「要件の内容は聞いていないか」


「はい」


「すぐに行こう。謁見の間で待つよう、イロに伝えてくれ」


「はい」



 男の足音が部屋から離れるのを待って、ラシェルはエルマに向き直った。



「すまないな、今日はエルマに会わせたい人がいたんだが、俺はこらから用事がある。

後で、会わせたいうちの一人を迎えによこすから、その者と共にもう一人のところへ向かってくれるか」



 誰だろう、と思ったが、ラシェルが急いでいるようだったので、エルマは訊かずに、「はい」とだけ答えた。



 ラシェルはそれに頷き、扉の方へきびすを返そうとした。


だが、ふと思い出したように、またエルマの方を向くと、


「エルマ、ずいぶんと姫君らしい振舞いができるようになったようだが、……話し方より、王族としての常識も、ゆっくりでいいが、学んだ方がいいぞ」



 と言って、再び扉の方へ歩いていった。


そして「じゃあ」と、軽く手を挙げると、そのままエルマの寝室を出ていった。