少女にしては落ち着いた低めの声が祈りを唱え終えると同時に、雄鹿は息をひきとった。


 少女がふう、と息をついて、額の汗を拭ったとき、さきほどまで少女が潜んでいた藪から、ガサゴソと音を立てて、長身の青年が出てきた。



「仕留めたか。さすがだな、エルマ」



 エルマと呼ばれた少女は背後をふり返ると「カル」と青年の名を呼んだ。



 カルはエルマの仕留めた鹿を見て、「これはまた、デカいのを…」と、ため息混じりに言った。


エルマが夕焼け色の大きな目を細め、白い歯を見せて誇らしそうに笑う。



「今夜は鹿肉だな」



「そりゃあ楽しみだ。早いとこ帰って、メオラにでも料理してもらおう」



 カルはそう言うと、普通の雄鹿より一回りも二回りも大きな鹿を片手で担ぎ上げた。


普通の人なら、カルの怪力に驚いて肝をつぶすものだが、長いつきあいなだけ、エルマは慣れたもので顔色一つ変えない。


「行こうか」と言って、二人で来たほうへ歩き出した。



 人の手が入っていない、完全な自然の森。


道のない、標のない森のなかであるにもかかわらず、二人の歩みに迷いはない。


狩人らしくするどい目をして、木々のあいだを音もなく歩きながら、仲間の待つ野営地を目指した。