この日、ついにシュタイン一五〇回目の夏市を迎えた。


エルマは城下に見える広い市の中からアルの店はどの辺りだろうと探したが、ひしめく人や店が多すぎて、結局見つからなかった。



「あれは、何ですか?」


 煙を指差して、エルマは訊いた。


すると、よくぞ訊いてくれたとばかりに、ラシェルは目を輝かせた。




「あれは、花火というものだ」


「花火?」


「そう」頷いたラシェルの目は自慢気だ。




「仕組みがどうなっているのかは知らないが、火薬を使って空中で小さな爆発を起こしているらしい。

少し前に西から来た火薬商人が、今年に夏市が一五〇年目を迎えることを祝して打ち上げたいと言ってきたから、特別に許可したんだ」



「西国の火薬商人というと、……アスタム王国の商人でしょうか」



 エルマがそう言うと、ラシェルは驚いたように目を見開いた。



「よく学んでいるようだな。勉強は大変じゃないか?


必要な知識をとにかく急いで詰め込んでいるから、学ぶ側はたまったものじゃないだろうと、レガロが言っていたが」



 心配顔で言うラシェルに、エルマは首を振った。



「いえ、知識を得ること自体は楽しいものです。それに、アスタム王国のことは教わったばかりですから」