それ以来、メオラは毎朝、着替えとお茶を用意しては、エルマの起きる頃に寝室に来る。


エルマにはそれが心苦しかったが、メオラは「お勉強よりも働いているほうがいいもの。」と言って、エルマの侍女を辞めようとはせず、また、エルマの身の回りの世話は他の侍女に譲らなかった。


ただメオラは、髪をきれいに結い上げる技術はまだまだ足りないので、その仕事だけはジラという侍女が引き受けていた。


彼女はエルマがルドリアでないことを知っている、数少ないうちの一人で、ルドリアの失踪を最初に見つけた人物だ。



 メオラがエルマの侍女になって十日、彼女がラシェルと連れ立ってエルマの寝室に訪れるのは初めてのことだ。

エルマが王城で暮らすようになってから、ラシェルもリヒターも何かと気遣って様子を見に来てくれたりはするが、朝一番に訪ねてきたことはなかった。


何か用事だろうかと、エルマは期待半分に思った。

この十日間ずっと、机に向かって一日中勉強ばかりしていたせいで、そろそろそんな生活にも飽きてきたのだ。



 ラシェルは一瞬たじろいだように足を止め、それからおずおずと部屋に入って来ると、エルマの隣に並んだ。

メオラはそのやや後ろで立ち止まり、手に持った薄手の上着をエルマの肩に掛ける。


寒くはなかったが暑くもなかったので、エルマは「ありがとう」と言って、素直にそれを羽織った。



「今日から夏市だな」


 ラシェルが言った。


「そうですね」と、エルマは答える。