*13*


 馬車に乗り込むと、リヒターが「お別れは済んだかい?」と、エルマに尋ねた。


 エルマはただ頷いた。


すると、御者台のレガロが「では、参りましょうか」と言って、手綱を握った。



 馬車はゆっくりと進み出す。

ここからセナの森を出て、昼頃には王城に着くのだ。



 馬で並走するカルはしきりと後ろを振り返っていたが、エルマは振り返らないでおこうと思っていた。


背後にはまだ、アルの皆がエルマを見送っている。

振り返って皆の姿を見れば、恋しくなることはわかりきっていた。



 だがそのとき、馬で併走するカルが、「なあ!」と、エルマに声をかけた。



 カルがは後方を指差して、「後ろ、見てみろよ」と言うので、エルマは訝りながらもしぶしぶ馬車から身を乗り出して、次の瞬間、息を呑んだ。



 背後にどんどん遠ざかっていくアルの民が、皆一様に剣を手に持っていた。それも、ただ持っていたわけではない。

左胸の前で、右手で剣を持ち、その切先をまっすぐ天に向けていたのだ。


そしてその切先には、皆それぞれ別の、色とりどりの細い帯状の布が巻き付けられていて、ひらひらと風に舞っていた。