*12*


 翌朝、清涼な空気が包む野営地に、質素ではあるが良質で高級そうな大きな馬車が、一台やって来た。


リヒターが昨夜のうちに狼煙を上げて呼んだ馬車だ。


御者は、王城でエルマに免税特権の書状を作ってくれた、レガロだった。



 その馬車の前に、エルマとメオラは立っていた。


リヒターは「僕がいたら邪魔になりそうだから」と言って、すでに馬車に乗っていた。

その馬車には、現在カームも乗っている。

リヒターと二人で話があると言って、先ほど乗り込んで行ったのだ。



 エルマとメオラの回りには、今仕事に出ていないアルの民、約七十人が取り囲んで、エルマたち二人に労わりや激励、感謝と別れを言っていた。


「王城は恐ろしいところだから、気をつけて」と言う者が存外多かったことに、エルマは苦笑した。


故郷を何らかの理由で追われた彼らは皆、国家や王家といったものに懐疑的なのだ。



 皆それぞれに言いたいことを言い終えると、一様に沈鬱な面持ちをして黙り込んだ。



 何か声をかけなければと、エルマが口を開いたそのとき、人だかりの外側から声がした。



「皆、そんな顔をしちゃあ、族長やメオラが安心して行けないだろ」



 馬を引いて現れたのは、ラグだった。


「まさか、もう会えなくなるなんて思ってる人はいないだろ?」



 ラグが挑発するように言うと、人だかりのどこかから、


「あたりまえだ!」


 と、声が上がった。



「だったら笑って送って、また帰ってきたときに、笑って迎えなきゃ」



 ラグが言うと、一族の者たちの顔が明るくなった。


エルマも思わず微笑み、そしてふと、ラグが馬の手綱を握った手を見た。