長としてのエルマと、娘としてのエルマと。

彼は、エルマが望むほうをとった。



「実は今回、この話をあなたたちにしたのには理由がある」


 リヒターが、笑みを顔に貼り付けて言う。



「僕らシュタイン王家は、エルマにアルの営業権と免税特権を与えて、その代わりにルドリアになってもらうと取引をしたけど、彼女がそれを承諾しなければ殺すと、脅しもした」



 その言葉に、カームとラグは息を呑む。それは、つまり。



「俺たちにも、何かさせるつもりか? 殺すと脅して?」



「そういうことだね」



 にこやかに答えたリヒターを、メオラは睨みつける。



「本当に、どこまでも、汚いやり方をするのね」



「それが僕の役目だからね。……カーム殿とラグ殿には、ルドリア探しを手伝って貰いたい。断ればアルの一族を殲滅するくらいのことはできるし、もちろん口外すれば容赦はしないけど、どうする?」



 引き受ける以外の選択肢など、最初から残されていない。


「いいだろう」


 カームが言って、ラグが頷いた。



「それで、エルマが王城へ行った後、長はどうする。おまえが決めろ、エルマ」



「それなんですが……」



 エルマは言いながら、ラグのほうへ向き直った。



「ラグ、あなたに任せたい。次の長に、なってくれるか」



 天幕に呼ばれたときから、この展開は読んでいたのだろう。


ラグは少し悲しげな目をしたが、とくに驚いたふうでもなく、サッと居住まいを正した。



「謹んで、長代理を引き受けさせてもらいます」



 エルマは頷きかけて、だがすぐにきょとんとした顔になった。



「ちょっと待て、代理って……」



「代理として、長の帰ってくるアルの一族を守ります」



 ラグは決然とした態度で言う。


その眼が、夏空の濃い蒼が、まっすぐにエルマを見る。



「お帰りを、お待ちしています、我らが長」