リヒターが言い終えると、皆一様に黙り込んだ。
ことの重大さをわからない者はいなかった。
終戦の――平和の象徴であるルドリア姫が、一ヶ月後の婚礼の儀に現れないとなれば、シュタイン側が終戦破棄の意志としてルイーネの姫を殺したと、そう思われてもおかしくない。
そうすれば、イスラ半島にまた戦乱がもたらされることになる。
「それで、」沈黙を破ったのは、カームだ。
「それに、エルマがどう関係するんです?」
その質問を受けて、リヒターは苦笑した。
「それがね、困ったことに、そっくりなんだよ」
「そっくり……?」
「うん。エルマと、ルドリアが。さすがにエルマはルドリアよりも日に焼けているけれど、顔かたちは見事に生き写しだ。
だから、エルマにルドリアの代わりをしてもらおうということになってね」
「代わり? エルマに、ルドリア姫を演じさせるということですか」
「そういうこと」
悪気など欠片もなさそうに、リヒターは言う。
だが、それを聞いたカームの目はみるみるつり上がっていく。
豪快で、相手の身分をいい意味でも悪い意味でも気にかけない性分のカームのことだ。
王子であるリヒターに怒鳴りつけはしないかと、エルマはハラハラしながら二人の様子を見ていた。
だが、エルマの予想に反して、カームはつり上げた目をふと諦めたように元に戻すと、ため息をついた。
「長が自分で決めたんだ、俺に文句は言えねえさ」
その言葉に、エルマは目を見開いた。そして、眩しそうにカームを見た。