「代表を立てる必要があるときや、皆の意見をまとめなければならないときのために長がいますが、その長も一族の相談無しに今後の方針を勝手に決めることはできません。

アルの一族は、大陸の多くの国々で『民族』と見なされていますが、国や民族とは違って、大きな家族のようなものだと、わたしは思っています。

家族の中に、ふつう役職などありません。

皆それぞれ、ある程度は一族に利することを気に留めながら、自分のしたいことをするだけです。

もちろん、共同生活を営む上で、最低限のルールはありますが。

家族の中にも気遣いや礼節が必要なように」



「家族……」



「はい。もちろん、血の繋がりはありませんが。役職はありませんが、……ラグは役回りで言うなら、長兄のようなものなのかもしれませんね」



 そっか、と言って、リヒターは笑みを深くした。



「では、エルマは父親だね」



 意外な言葉に、エルマは目を見開いた。



「ち、父親ですか!? 年齢と性別からして、次女あたりの位置付けになるのではないかと……」



 リヒターはにやにや笑いを顔に浮かべた。



「一家の長は父親の役目、というのが、僕ら定住の民の常識だ」


「なるほど……」


 エルマは苦笑した。



「では、先代はすでに引退しているので、祖父ですかね」


 それを聞いて、ハハハ、とリヒターが声をあげて笑った。