エルマもカルもメオラも、三人とも自分の故郷を、親を、知らない。


エルマは赤子の頃、シュタイン・ルイーネ戦の後に、死体の山となった野原に捨て置かれたところをカームに拾われた。


カルは自分の名前さえも知らない幼い頃に奴隷商に売られ、物心のついた頃に市場に並べられたところを逃げ出して、アルの民に保護された。


メオラはまだ三つの頃から兄のラグと共に旅から旅の生活を送ってきて、六つになる頃にアルの仲間になった。



 エルマの名は、エルマが拾われたすぐそばにいた負傷兵が付けたと、カームに聞いたことがある。


おそらく、その兵の故郷の言葉だったのだろう、と。


保護された当時、自分の名前も知らなかったカルに、「カル」と名前を付けたのはカームだ。


義理とは言えエルマと兄妹になるのだから、エルマの名の由来となった言葉に因んだ名にしようと、カームが決めたのだ。

だからエルマもカルも、カームから聞いて自分の名前の意味は知っているが、メオラは違う。



 メオラの名は、親が付けたものだ。

もちろん、ラグの名も。

だがその意味を知っている親は、もういない。



 男はそんな事情は知らず、「そう、残念だな」と言った。



 それから、ふと太陽のほうを見ると、



「それじゃあ、無駄話はこれくらいにして。そろそろ行こうか」



 そう言って、握手を求めるように、右手をエルマに差し出した。



 エルマは遠慮がちにその手を握る。



「僕は第二王子、リヒター・セルディーク。ラシェルの弟だよ。これからよろしく、エルマ」



 そう言って笑みを深くしたリヒターの手は、夏だというのに、大理石のようにひんやりと冷たかった。