そんなラシェルを見てリヒターはもう一度微笑むと、「さてと」と言って扉の方へ歩き出した。



「じゃあ僕は、そのエルマとやらを見に行こうかな。

ついでにアルへ一度戻るエルマについて行こう。

逃げないとも限らないからね。イロ、案内してよ」



 呼ばれたイロが「はい」と頷いて、早足でリヒターを追いかけた。


二人は扉の前でラシェルに一礼すると、連れ立って出て行った。



 扉の外に誰もいなかったところを見ると、リヒターはすでに兵を元の配置に戻したようだ。


窓を開けて、いつも射手を配置するあたりを睨んでみたが、それらしき者はいなかった。



「わかっているさ」


 窓の外をぼんやりと見ながら、ラシェルは呟いた。



 わかっている。



 リヒターの「優しい」は、暗に「甘い」と言っているのだ。


リヒターやイロがやったことは非道ではあるが、国のためには正しいことだ。


自分が非道となじる権利はないし、そんなのはきれいごとだ。

よくわかっている。



 窓の外、城下には商人たちでごった返し、各々が市の準備を整えている。


見ているだけで喧騒が聞こえそうな賑やかな光景を眺めながら、ラシェルは小さなため息をついた。