「おとなしく牢へ入ります。私が私利私欲のためにリヒター王子を陥れたわけではない、という証明のために」



 イロの言葉に、ラシェルはどこか寂しそうな笑みを浮かべた。



「そんなもの、証明などしなくてもわかるさ」



 なあ、イロ。

そう呼びかけるラシェルの声は暖かい。

まるで、親しい友に呼びかけるように。



「おまえが国のためにしたことなんて、わかっている。おまえはいつだって正しかった。……非情になれずにいた甘い俺を、いつだって支えてくれた」



 ラシェルの言葉を、イロはうつむいて聞いていた、――が。



「今朝、父上から王命が下った。近いうち、正式な公表があるが」



 唐突なその言葉に、イロは顔を上げた。その目は驚愕に見開かれている。



「まさか」


「ああ。――俺に王冠を譲る、と」



 まるでなんでもないことのように、普段と変わらぬ口調で告げられたその事実に、メオラも大きく目を見張る。



 以前、ラシェルに「あなたは良い王になる」と言ったことがあった。


彼が玉座に着くことを、そのときは遠い未来のように思っていたのに。