「ラシェル、どうして……?」



 力が抜けて立ち上がることもできず、メオラは床に座り込んだまま、半ば呆然と尋ねた。



 ラシェルは左手に持った剣を鞘に納めると、メオラの頭を一度ぐしゃぐしゃと撫でた。そして。



「昏睡から目が覚めたあの日、……リヒターが処刑されたあの日、一部始終をレガロに聞いた。リヒターのボタンを毒商人が持っていたと聞いたときから、おまえじゃないかと思っていたんだ、イロ。……おまえは、かなり前からリヒターを俺から遠ざけようとしていたからな」



 メオラを背にかばうようにイロの前に立って、ラシェルは言った。



「だから、メオラが一人でイロを探しに行ったとフシルから聞いたときに、嫌な予感がした。リヒターがルドリアの件を民にバラしてしまったから、一応エルマやメオラは『用済み』だしな。おまえは俺以外の者には容赦がないから」



 ラシェルは言って、剣を持ったまま構えることもせずにだらりと下ろされたイロの右手を見やった。



「ずいぶんと諦めが早いな。抵抗はしないのか」


「あなたを害するつもりは毛頭ございませんから」



 そう言って、イロは剣の柄を握っていた手を放した。


重い音を立てて、剣が床に転がる。