*7*


「こんな非道な真似をしろと誰が言った」


 アルの二人がいなくなった謁見の間で、椅子に腰掛けたラシェルは、イロに静かに尋ねた。



 ラシェルとイロがエルマに会う前に打ち合わせていたのは、ラシェルがわざと挑発するような物言いをして、エルマが怒るよう仕向ける、ということだけだった。

エルマの忍耐がどこまでもつのか、ひいてはエルマが城内でどれだけうまく立ち回れるかを試すためだ。

あれくらいで腹を立てて怒鳴りでもするようなら、エルマがどれほどルドリアに似ていようが王城に迎えるわけにはいかない。



 怒ってはいたであろうが、それを表情に出さずにラシェルの「頼み事」を言い当てたエルマは合格だ。



――本人は不本意なことだろうが。



 きっとエルマは、アルにとっては良い長であったのだろう。

メオラのエルマに対する態度を見ていればわかる。

それをむりに取り上げてしまったのは、ラシェルにとっても不本意だ。

だからこそ、イロがラシェルに何の相談もなく、エルマを脅すような真似をしたことに、ラシェルは腹を立てていた。



「この国の民でもない者の自由を、この国のために縛るなど」



「おそれながら、殿下」



 イロがラシェルを遮って言った。



「では、あの者が断れば、そのままおとなしく帰すおつもりだったのですか?」



「ああ、そうだが」



「あの者がこの件を民に話せばどうなります? シュタインの民にこのことが広まれば、ルイーネにも当然伝わりましょう。

和平の象徴たるルドリア姫が消えたことがルイーネに知れれば、またもや戦になるやもしれません。

まだ停戦して二年です、殿下。

また戦を起こして民を疲弊させるべきではありません。

そのためにも、このことが城の外に漏れるのは阻止せねばなりますまい」


「だが……」