ラグも酒屋を出て、愛馬のもとへ戻る。

朝からずっと、暴力沙汰や演説が行われている場所に片端から乱入して、同じことを繰り返していた。



「そろそろかな」



 真上に輝く太陽を見上げてつぶやくと、ラグは馬を駆けた。

向かうのは広場。そこで、エルマが待っている。



 ルイーネ・シュタイン両国の商人が集まるミオーラの街に、普段のような喧騒はない。

ラグや他のアルの者たちが街中に噂を流したので、ほとんどの民が今は広場に集まっていた。



 ミオーラの中央広場はミオーラ領主の館の前にある。

ラグがたどり着くと、そこには広場に収まりきらないほどの人々が集まっていた。

その最後尾にいた二人の男女が、ラグの馬の蹄の音を聞いて振り返る。


栗色の髪の男と褐色の肌に黒髪の女は、テオとマリだ。



 二人はラグの姿を見とめ、小さく頷いた。

ラグも頷き返す。それが合図だ。

――万事、計画通りにせよ。



 二人が分かれて人ごみの中へ入っていくのを見届けると、ラグは一度広場を離れて路地へ入った。

ミオーラ領主の館にいるエルマたちと合流するためだ。

群集に見つからないように、館の裏手側へ回らなくてはならない。