そうだ。

エルマは落ち着いているように見えるが、これは紛れもなく、絶望的な状況なのだ。



「流民の自由など知らない、人を人とも思わない、これが王家のすることか……」



 エルマが低く言った。

メオラもかすれた声で、最低、と呟く。



 エルマはもうアルの元へ帰れない。


野営地の見回りだと言って森中を駆け回って狩りをするのが大好きなエルマは、これからこの窮屈な城で、窮屈なドレスを着て、窮屈な言葉遣いで話さなければならない。

リアにはもう乗れない。

先代カームにはもう会えない。

カルにも、ラグにも。


――そしてきっと、メオラもそうなる。

この城に入って、話を聞いてしまった以上は。



「そう悲観するものでもない」



 エルマを慰めようとするかのように、ラシェルが言う。


先程まで挑発的な物言いをしていたのに、ずいぶんと口調が優しい。


それが逆にメオラを苛立たせた。



「たしかに卑怯な真似をした。それは詫びる。

詳しい事情の説明は今はできないが……頼みを聞きいれてくれたあかつきには、何不自由ない生活を約束しよう。

本物の王子妃のように扱わねば、周囲に怪しまれることだろうしな。

何かほしいものがあれば言え、できうる限り応えるつもりだ。

そこの……エルマの付きの者、名は?」



 的外れなことを言うラシェルにうんざりしながらも、


「メオラと申します」


と、頭を下げる。付きのメオラの礼儀がなっていなければ、非難はエルマに向かうからだ。



「メオラもなんとか言い訳を考えて、それ相応の身分の姫として城に迎えよう。

――どうだ、アルの長よ、聞き入れてくれるか?」



 それ以外の答えなど許さないくせに、と、メオラは心中で呟いた。



 そして、どうするの、とエルマに視線を送る。

やはり聞き入れるのか、それとも力ずくで逃げるか。

エルマ一人ならそれができると、メオラは思っている。