「国使はこちらのラグだけ。わたしはシュタインから、祖国ルイーネの現状を案じて訪ねただけ。国使とはたまたま同行していただけでございます」



「では、そなたと国使は関係ないと?」



「ええ。……ああ、でも、国使の連れに万が一何かあれば、国使はその痛ましい出来事を、国に帰った後に話してしまうかもしれませんね」



 つまり、エルマの行動の一切に国使は責任を持たないが、たまたまとはいえ同行した者の身に危険があれば、国使はそれをシュタインに報告せざるを得ない。

たとえば、「旅の思い出」という形で。



それを聞いたシュタインの王子殿下は、身内であるはずのエルマを殺してしまうような国と条約など結べるか、と思ってしまうかもしれない。



 そうすれば和平条約は白紙に戻るだろうな、と、エルマは暗に言っているのだ。



 一見めちゃくちゃなこの言い分は、しかし一理はあるので無視できない効力を持っている。

この暴論がサリアナに対しての牽制となるのだ。