大きく揺れながら馬車が止まると、蒼白になったディネロが立ち上がった。



「無礼な……! 何者だ!」



 言って、馬車から飛び出そうとするディネロの首根っこを引っ張って、エルマは再び床に伏せた。



 同時に、二人の頭上でドッと鈍い音がした。

前方から飛んできた矢が、御者台を通って刺さったのだ。

見ると、ラグの左腕に一筋の切り傷があった。



「ラグ、無事か」



「大丈夫。かすり傷」



 短く答えたラグの右手には、短剣が握られていた。

エルマも馬車の中に立てかけていた短槍を構えた。



 外の様子を伺おうと、エルマが御者台からそっと覗く。

そうして、エルマは驚きに目を見張った。



 ディネロの馬車を囲んでいたのは、ルイーネ兵の制服を着た者たちだったのだ。



(なぜルイーネ兵がディネロの馬車を囲んでいるんだ……? 反乱でも起こす気か……?)