「今思えば、軽率で無責任なことをした。生まれたばかりの赤ん坊をあんなところに置き去りにするなど、殺すより残酷なことだ。……すまない」



 深く頭を垂れるディネロに、エルマは首を振った。



「謝らないでください。――兄上のおかげで、わたしは多くの大切な者たちに出会えました」



 優しい父と、共に笑いあえる友人たちと、生涯共にありたいと願える人と。



「だから、命を救っていただいたことを感謝こそすれ、恨むことなどなにもありません」



 本心からの言葉だと、ディネロにも伝わったのだろう。

ディネロは安心したようにかすかな笑みを浮かべて、小さく頷いた。



――そのときだ。



「エルマ、伏せて!」



 突然、ラグの怒鳴り声が響いた。



 エルマはパッと座席から降りて床に伏せる。

その瞬間、エルマが座っていたちょうど左側に空いていた窓から矢が飛んできて、右側の壁に刺さった。