リヒターを――心から慕う人を殺した痛みは、エルマには計り知れない。

あれからそれほど日も経っていないが、フシルは、今どう思っているのか。



 問われたフシルは、笑って「はい」と答えた。



「王子は、最後に私に『ありがとう』と言ったんです。……だから、いいんです。私はそれだけで」



 ありがとう、フシル。

泣き笑いのような表情でそう言った顔を、声を、体温を、きっとずっと覚えているだろう。



 最後の言葉を、フシルに遺してくれた。

最愛の兄でも、恩人であるエルマでもなく、フシルに。



 ずっと、誰よりも近くで見てきた。

隣には立てなかったけれど、彼を追いかけるのが好きだった。

そして――最後の最後に、振り向いてくれた。



 それだけで、これからだって生きていける。



「そうか。……それは、よかった」



 それじゃあ、そろそろ行こうか。

エルマが言って、リアに跨った。ラグも自分の馬に乗る。



「じゃあ、カル、フシル。ラシェルたちを頼んだ」