処刑場には、剣どうしがぶつかり合う音だけが響いていた。


当初は互角に思えた二人だが、よく見るとフシルの息が上がってきている。



 対してリヒターは、フシルの素早い突きを流れるような剣さばきで弾き返す。


 このままではフシルが負ける。エルマがそう思った矢先。



 フシルの剣を避けて身を翻したリヒターの視線が、エルマの方を向き――その目がラシェルの姿を捉えて大きく見開かれた。



 リヒターの動きが鈍くなったその一瞬を、フシルは逃さなかった。



 あ、と乾いた声でエルマが呟いたその瞬間。



 フシルの剣が、――リヒターの腹を刺し貫いた。



 沈黙がざわついた。広場全体の動揺が風となって一帯を揺るがせたような、そんな感覚に包まれる。



 エルマもラシェルも、その場にいるすべての者が、言葉を失ってただ静かに目の前の光景を見ていた。



 フシルは後から後から流れ落ちる涙をそのままに、忠誠を誓ったただ一人の主を刺した剣を、一気に引き抜く。