「…………は?」



 声を上げたのはメオラだ。



「あの、おそれながら、それはいったいどういうことでしょうか?」



 眉根を寄せたまま一言も発さないエルマの代わりに、メオラが問う。



「ハハハ、冗談だ」



 ラシェルは少しも悪びれずに、豪快に笑う。


 この、ラシェルのふざけているとしか思えない態度に、メオラは苛立ちを抑えきれなかった。


さっさと本題に入ってもらおうと、「あの」と声を上げた。


 だが、それをエルマが遮って、


「ラシェル殿下」


 たった一言、ラシェルに呼びかけた。



 呼ばれたラシェルは急に笑いを引っ込め、エルマを見つめた。


エルマの赤い目と、ラシェルの金の目が、瞬き数回の間睨み合う。


メオラはその緊迫した空気に内心ひやりとしたが、ラシェルはすぐにまたその精悍な顔に笑みを浮かべた。


さっきまでの面白がっているような笑みとは違う、挑発するような笑みだ。



「耕地から逃げ出してふらふらしているような流民ふぜいと思って侮ったな。なかなかに強い眼をしている」



 メオラは不敬であると知りつつも、眉をひそめてラシェルを睨みつけた。


頼みごとをしているのはラシェルのはずなのに、先程からなかなか本題に触れようとせず、エルマを挑発するような物言いをする。


王子だからといってあまりに無礼だ。

優秀な王子という噂があったが、単なる噂で、その実は暗愚だったのか。



 だが、エルマはラシェルの挑発には全く反応せず、淡々と、


「ルドリア姫はどこに?」


 そう尋ねる。


その途端、ラシェルとイロの顔色が変わったのを、メオラは見た。