是非を問うような視線に、エルマは迷わず首を縦に振る。



 エルマは立ち上がってリヒターの元まで行こうとしたが、リヒターはそれを手で制した。



「そこでいいよ。……イロも戻りなよ」



 イロを座席に戻るよう促して、リヒターは少し離れたエルマにも聞こえるように声を張り上げる。



「君には、たくさん迷惑をかけたね」



 薄く微笑みながら言われた言葉に、どう返していいのかわからず、エルマは黙ったままだ。

リヒターはかまわず続ける。



「最期にもう一つ迷惑をかけることを許してほしい」



 まあ、お礼も兼ねているんだけど。と、リヒターは苦笑した。



 わけがわからず怪訝な顔をしたエルマに、リヒターはいっそう笑みを深くし――言った。



「君に、自由を返そう。――エルマ」



 ざわ、と、会場に小さな不審が広がる。

エルマはもちろん、イロも、カルやフシルも、レガロも、一様に目を見張った。



――リヒターは、「エルマ」と呼んだのだ。大衆の面前で。