「……ああ」



 溜息のような声を漏らして、リヒターは天井を仰いだ。



 忘れるな、とは。

純粋に互いを愛している彼らを、羨ましいと言ったことに対して言っていたのだ。


――おまえだってもらっているだろう、と。



「そうだよね、……フシル、ごめん、そうだったよね……」



 呟く声が震えた。鼻の奥がツンと痛んで、後から後から、頬を雫が流れ落ちる。



(僕だって、もらっていたんだ。ただ、それを僕が見ようとしなかっただけで)



 そんなものが、自分に向けられるわけがないと。

そう決めつけて見ようとしなかったのは自分自身だった。

気付いていたくせに、気付かないふりをしていた。



――彼女は、あんなにまっすぐに慕ってくれていたのに。



 ずっと、純粋な愛情を向けてくれていたのに。



「ごめんね、……フシル、ごめん……」



 流れ落ちる涙をそのままに、リヒターはずっと、フシルの名を呼び続けた。