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 城内の謁見の間に通されたエルマは、膝をついた姿勢のまま、じっと大理石の床を睨みつけていた。


右には同じ姿勢のイロと、一歩下がって左にメオラがいる。


エルマたちになにかあったときのために、アルへの伝令役として、カルは残してきた。



 いったい誰を待っているのか、エルマはわかっていなかった。


イロには「会ってもらいたい方がいる」と言われただけだ。


だが、エルマたちが謁見の間にいることと、目の前の豪奢な椅子、そして、ひざまずいてその人物を待つイロを見るに、相手は王族か、それに準じる身分の者だろう。



 いったいなぜ自分がそんなたいそうな身分の者に会わなければならないのかは、エルマには皆目見当もつかなかったが。



 それにしても遅いな、と、エルマが椅子の背後のカーテンを睨みつけたとき。



「悪い、待たせたな」



 若い男の声と共に、シャッと小気味いい音と共にカーテンが開いた。


現れたのは赤い髪の、齢十七、八ほどの男だ。



 その髪色を見たとき、エルマはその男が誰なのかを瞬時に悟った。



 ラシェル・セルディーク。シュタイン王国第一王子その人だ。



 国を持たないアルの民のエルマでも、噂をよく耳にする有名人だ。


 噂曰く「下賤の女の腹から生まれた赤毛の王子」と。



 セルディーク家は代々、富の象徴のような黄金色の髪と眼を受け継ぎ、それが国を富み栄えさせる義務を持つ王家の誇りでもあった。


だが、現シュタイン王の第一王子は燃え盛る炎のような赤い髪を持っている。

どうやら第一王子は現王と市井の娘との間にできた子であるらしい。

そんな噂だ。



 そして、

「そんな生まれであるにもかかわらず、第一王子の座を現王から与えられているのは、次期シュタイン王としての器も才気も備えた、申し分なく優秀な王子だからだ」

というふうに、ラシェルを擁護する噂もある。