「さっきまでフシルが来てたんだ。君たちが兄さんを連れて帰ってきたと伝えてくれた」



「……そうか」



「兄さんが右腕を失ったことも聞いた。……だから抵抗をしろと怒られたよ。兄さんが僕まで失わないようにって」



 ははは、参ったな。そう言って笑うリヒターを見つめる一同の顔は暗い。



「リヒター、わたしはどうすればいい」



 エルマはそっと、鉄柵を握った。固く冷たい鉄の感触は、エルマの体温を受け入れようとはしない。



「どうすれば、おまえをここから出すことができる? 何でもするから、教えてくれ」



 してほしいことがあったら何でも言ってくれ。頼むから――。



 悲痛な顔でそう言うエルマに、リヒターはあくまで笑顔のまま、「じゃあ、」と言う。



「君には、これから起こることを黙って見ていてほしい」



「……え?」



「僕が流刑になんてなれば、王妃は黙っていないだろう。絶対になにか仕掛けてくる。だから、この機会に布石を打つ」