「あなたもリーラ様も、ラシェル殿下も、そうは思わないでしょう。

しかし、リヒター王子のことをよく知らぬ殿下側の人間はそうはいきません。

彼らにとって、今回のことはリヒター王子を退ける格好の餌です。……おそらく、流刑は免れぬでしょう」



 流刑。真っ白な顔でエルマはそう呟いた。

肩にかかったラシェルの体が急に重く感じた。



 遠く、王城から遥か遠くに、リヒターが行ってしまう。

あれほど兄を敬愛している彼が、兄を殺そうとしたという汚名を着せられて、ここから遠くへ追いやられてしまう。



「……そんなこと、あっていいはずがない」



 あの二人は、二人で一つなんだ。

いずれ王位を継ぐのが兄だろうが弟だろうが、二人で一人の「この国の王」なんだ。どちらが欠けてもいけない。

いいはずがない。



「わたしを、リヒターのところへ連れて行け」



 呟きほどの小さな声で、しかし強い口調で言ったエルマの言葉に、イロはただ無言で頷き、歩きだした。