(いた)


 エルマはイロの元へ駆け出そうとして、ふと、足を止めた。


 そのエルマの様子を見て、カルもイロに気づいたようだ。

怪訝そうな顔をして、エルマの肩をたたく。



「なあ、エルマ……あれ、もしかして、こっちに来ていないか?」



 もしかしなくてもそうだった。

イロはまっすぐエルマを見て、まっすぐエルマの方へ歩いてきていた。



 エルマたちが動けないでいるうちに、イロはエルマの前で立ち止まると、その場に膝をついた。



 あまりに予想外なイロの行動に、メオラもカルも、エルマも、呆然として言葉も出ない。


これまでアルの民を下賤と切り捨ててきたイロが、王族に対するものにも等しい礼を、エルマに見せたのだ。



 エルマはなにか、ひやりとしたものが背中を撫でるのを感じた。



 伏せた頭の下で、イロは言う。



「お待たせした、アルの長よ。どうか、一緒に来てもらいたい」



 カルとメオラが、同時にさっとエルマを見た。


背後からエルマに刺さる二人の視線が、どうするのかと問うているのを、エルマは肌で感じた。



 どうするもこうするも、もともとエルマはイロに会いに来たのだ。断る理由などない。



 エルマは黙って頷いた。