驚いたエルマが振り向くのと、馬車が止まるのはほぼ同時だった。


窓の外を見ると、王城の城門がそびえている。

突然城の前に止められた馬車に警戒してか、二人の門衛が険しい顔で長槍を構えていた。



 床に倒れて苦しそうに肩で息をしているラシェルに駆け寄り、エルマはその肩に手をかける。



「ラシェル、王城に着いたぞ。……立てるか?」



 馬車の外から「何者だ」と問う門衛の声がした。

エルマの声よりも門衛の声に反応したように、ラシェルがゆっくりと顔を上げた。



「……肩を、貸してくれないか」



 その唇が小さく動いて、かすれた声がもれた。

それを聞くやいなや、エルマはラシェルの右腕の下に潜り込んでゆっくりと立ち上がる。



 一歩一歩、エルマは慎重に足を運んで馬車を降りた。

それまで剣呑に眉をひそめていた門衛がエルマとラシェルの姿を見とめて、驚いたように目を見張る。



「ルドリア姫に、……ラシェル殿下!」



 高熱にぐったりとしたラシェルに動揺しつつも、門衛は槍を収めてエルマに駆け寄る。

ラシェルを運ぼうと伸ばされた手を、しかしエルマは首を振ってはねのけた。

――この状況で、王城の者をやすやすと信頼できるわけもなかった。



「ラシェルはわたしが部屋へ運びます。……あなたたちはレガロとリヒターを呼んでくれませんか」