休むことなく駆け続け、つい先ほど、一行は王都シュロスに入った。王城まであと半刻もかからないだろう。



「あと少しよ、ラシェル。がんばって」



 朦朧としたラシェルに、メオラが声をかける。


ラシェルは小さく頷きながらも、ぐったりとしている。

熱がぶり返しているのは明らかだ。



 エルマは眉間にしわを寄せて、馬車の窓から外を眺めていた。



 強い雨が顔に叩きつける。この風雨の中、遠くからエルマたち一行を矢で狙うのは不可能だ。


王都に入った以上、賊に見せかけて襲うのも無理がある。


この先、刺客が襲ってくることはないだろう。



 そのことが、逆にエルマの不安を煽っていた。



 刺客が襲って来ないわけがない。

そう覚悟を決めて一行はギドの屋敷を後にしたのだ。


わざわざ策を弄してラシェルを辺境のクランドル領へ追いやった王妃が、たった一度刺客が返り討ちに遭っただけで諦めるわけがない。

なんとしてでもラシェルが帰還する前に襲撃をかけるはずなのだ。

――余程の事情でもない限り。



(まさか、リヒターに何か……)



 ラシェルの懸念が当たったのかもしれない。

――エルマがそう思ったとき。



 ドサッ、と、背後で何かが倒れる音がした。

ついで、「ラシェル!」というメオラの小さな悲鳴。